旧約聖書の編纂
旧約聖書(ヘブライ語聖書)の編纂は、長い期間にわたって行われました。特定の時期に一斉に編纂されたわけではなく、異なる時代に書かれた文書が後に一つの正典としてまとめられたものです。全体的には、紀元前12世紀から紀元前2世紀にかけて、長期間にわたり断続的に編纂されました。
以下に、その主な編纂の時期と過程について説明します。
1. 初期の口承伝承と書記的伝承
- 紀元前12世紀~10世紀頃:
イスラエル民族の起源に関する物語や、モーセの出エジプト、カナン征服、士師時代の物語などは、最初は口承伝承として伝えられていたと考えられています。この時期に、部分的に書記的な記録が残されていた可能性がありますが、これらは後に聖書の形に組み込まれました。 - ダビデ王とソロモン王の時代(紀元前10世紀頃):
ダビデ王とソロモン王の治世に、イスラエル王国が統一され、書記官制度が発達したことで、王国に関する公式記録や法律が書き記されるようになったと考えられます。この時期に、創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記(トーラー)に関する初期の書記的伝承が整理され始めた可能性があります。
2. ヤハウェ信仰の確立と歴史的編纂
- 紀元前8世紀~7世紀頃:
預言者たちの活動が盛んになる時期で、イザヤ書やアモス書、ホセア書などがこの時期に書かれ始めました。また、この時期に、ヤハウェ信仰が一神教的に確立し、宗教的な文書や物語が整理され、王国の歴史が書かれました。 北イスラエル王国の滅亡(紀元前722年)がこの時期に起こり、これを契機に、イスラエル民族の宗教的・歴史的な記録が強化され、保存されるようになったと考えられています。 - ヨシヤ王の宗教改革(紀元前7世紀後半):
ユダ王国のヨシヤ王(紀元前640年~609年)は、宗教的改革を進め、ヤハウェ信仰を強化しました。この時期に、「申命記」などが整理され、トーラー(モーセ五書)の最初の体系的な編纂が行われたと考えられています。
3. バビロン捕囚後の再編纂
- 紀元前6世紀(バビロン捕囚の時代):
紀元前586年にバビロンに連行されたイスラエルのエリート層が、バビロン捕囚の期間中に自らの宗教的アイデンティティを保持し強化するため、書記的伝承を整理し、編纂しました。この時期に、旧約聖書の重要な部分が再編纂されたと考えられています。 特に、エゼキエル書やイザヤ書(第二イザヤ)、歴史書の編纂が進められ、イスラエルの歴史や預言が神学的に解釈されました。
4. ペルシア時代と第二神殿時代
- 紀元前5世紀~4世紀(第二神殿時代):
ペルシア帝国の支配下で、捕囚から帰還したユダヤ人たちは、エルサレムに第二神殿を建設し、宗教生活を再開しました。この時期に、旧約聖書の律法、預言書、歴史書が整理され、エズラ記やネヘミヤ記などの歴史書が完成したと考えられています。また、詩篇や箴言などの詩歌や知恵文学の書も、この時期に編纂が進められました。
5. 紀元前3世紀~2世紀(ギリシャ時代)
- 紀元前3世紀~2世紀頃:
ヘレニズム時代には、ユダヤ教の教典の整理が進み、ユダヤ教の正典が完成に近づきました。ダニエル書のような後期の預言書が書かれたのもこの時期です。 - セプトゥアギンタ: 紀元前3世紀には、ヘブライ語で書かれた聖書がギリシャ語に翻訳されました。これがセプトゥアギンタ(七十人訳聖書)です。この翻訳作業は、ヘブライ語聖書が既に相当な程度で体系化されていたことを示しています。
まとめ
旧約聖書の編纂は、紀元前12世紀から紀元前2世紀頃にかけて、数世紀にわたり進められました。最初の部分は、口承伝承として始まり、イスラエル王国時代からバビロン捕囚、ペルシア支配、ヘレニズム時代に至るまで、様々な時代に書かれた文書が整理・編纂され、最終的に現在の旧約聖書の形にまとめられました。