国債の始まり
倹約をしない金持ちは、生活必需品を購入した後の余った資金は、贅沢品や装飾品の購入に使うか、贅沢なもてなしや見栄を張った施しに使っていた。
このような金持ちは財産を食いつぶし、いずれ破滅するのが通常である。
倹約する金持ちは、贅沢とはいえないもてなしや見栄をはらない程度の施しに使っていた。
戦争が頻繁に起こる時代には、いつでも逃げることができるように金銀を蓄えていた。
余ったお金を商売に使うのは恥だと思われた時代であり、金貸しは法律で禁止されている時代だった。
未開の社会には、巨額の資本をもつ商工業者はいない。
金銀を蓄え、隠すのは、政府が正義を守るとは信頼しておらず、金銀を蓄えていることが知られ、どこに隠しているのかが知られれば、すぐに強奪されると恐れている。
国富論第五編第三章 政府債務
しかし、戦争の危機が迫ってくると、主権者は平時の資金の蓄えでは足りなくなるのが普通である。
戦争に必要な資金を確保するために新たな税金の法律を作っても、実際に戦争の資金としその税金が使うことできるようになるまでは、民間から資金を借り入れざるを得ない。
政府は必要に迫られているので、ほとんんどの場合、貸し手にとって極めて有利な条件で資金を借り入れる。
当初の貸し手に発行する債券は自由に譲渡でき、政府の司法制度は幅広く信頼されているので、市場で当初の払い込み額より高く売れる(金利はやすくなる)のが通常である。
商人や金持ちは政府に資金を貸し付けて利益を上げるのであり、事業資本を減らすのではなく、増やすのである。
だから、政府の新たな借り入れの際に引き受け先の一人に選ばれれば、政府に優遇されたと考えるのが普通だ。
商業国の国民に貸し出しの意志があるのはこのためである。
国富論第五編第三章 政府債務
国民に貸し出し意志があると、政府も民間から容易に資金を借り入れることができると考える。
そして、歳入不足を補うために将来の税収を担保にして、いわゆる「赤字国債」を発行し続けることになる。
こうした国の政府は、緊急事態が起こった際に国民が政府に資金を貸し出す意思と能力をもつ点に頼ることになりやすい。
簡単に借り入れられると予想するので、金銀を蓄える義務を果たさなくてもいいと考えるようになる。
国富論第五編第三章 政府債務
貯蓄をしない浪費家が必要に迫られて、定期収入が入ってくるのを待ちきれずに借金に頼るように、政府も自分の代理人からいつも資金を借り入れ、自分の資金を使うてために、利子を支払い続けているのである。
国富論第五編第三章 政府債務
もともと、中央銀行は政府の代理人である。