国債の発行
政府は必要に迫られているので、ほとんどの場合、貸し手にとってきわめて有利な条件で資金を借り入れる。
当初の貸し手に発行する債券は自由に譲渡でき、政府の司法制度は幅広く信頼されているので、市場で当初の払い込み額より高く売れるのが普通である。
商人や金持ちは政府に資金を貸し付けて利益を上げるのであり、事業資本を減らすのではなく、増やすのである。
だから、政府の新たな借り入れの際に引き受ける先の一人に選ばれれば、政府に優遇されたと考えるのが普通だ。
商業国の国民に貸し出しの意思があるのはこのためである。
国富論第五編第三章 政府債務
政府の発行する国債は、銀行などの民間金融機関が引き受ける。
そして金融機関は、引き受けた国債を金融商品として顧客に販売することによって利益を得る。
債券は購入時の価格が安い方が、召喚時の利益(利回り)が多くなるため、金融機関はできるかぎり定価で購入しようとする。
こうした国の政府は、緊急事態が起こった際に国民が政府に資金を貸し出す意思と能力をもつ点に頼ることになりやすい。
簡単に借り入れられると予想するので、金銀を蓄える義務を果たさなくてもいいと考えるようになる。
国富論第五編第三章 政府債務
政府の財政収入に対する信頼があれば、国民は政府が金銀の担保を保有していなくても、確実に返済されると予想できる。
そして、たとえば金本位制を放棄しても政府は無担保で国債を行することができる。
一方で、紙幣発行権を持つ国の中央銀行が、政府の発行した国債を市場で買い入れることによって、市場で流通する資金を増え、取引される物資の総量を拡大するので経済を活性化することができる。
未開の社会には、巨額の資本をもつ商工業者はいない。
金銀を蓄え、隠すのは、政府が正義を守るとは信頼しておらず、金銀を蓄えていることが知られ、どこに隠しているかが知られれば、すぐに強奪されると恐れているからである。
こうした状況では、緊急事態が起こったときに政府の資金を貸し出す能力がある人はごく少ないし、貸し出す意志がある人はまったくいない。
主権者は緊急の場合に資金を借りるのが不可能だと予想するので、金銀を蓄えて備えておかなければならないと感じる。
こう予想するので、貯蓄しようとする本来の姿勢が一層強まる。
日本のようにタンス預金(現金・貯蓄)が多いということは、政府が信用できない「未開の社会」ということになるのかもしれない。
しかし、一方では、国の発行する国債は莫大である。
世界でも、かなり特殊な財政状況の国のようにみえる。
このような現象は国内で流通する資金の使途、つまり資本の投入とその回転が遅い、または収益力が低く無駄な投資が多いということだろうか。